一緒にいる時間が増えるほど、些細なことでぶつかる。かといって距離を置くと、今度は寂しくて落ち着かない。恋愛の悩みの多くは、突き詰めると距離の問題です。
ドイツの哲学者アルトゥル・ショーペンハウアー(1788-1860)は、晩年の著作『余録と補遺』の中で、この問題をヤマアラシの寓話として書き残しました。のちにフロイトが取り上げたことで、心理学の側でも知られるようになった話です。
寓話の中身
寒い日、ヤマアラシの群れが体を温めようと寄り集まります。ところが近づきすぎると、互いの針が刺さって痛い。離れると、今度は寒さに耐えられない。
彼らは近づいたり離れたりを繰り返し、最終的に、寒さをしのげて、なおかつ針が刺さらない、ほどよい距離を見つける——そういう話です。
大事なのは結末より過程のほうです。ほどよい距離は、最初から分かっていたのではありません。刺さって痛い思いをし、離れて寒い思いをして、その往復のすえに見つかっています。
恋愛にそのまま当てはまる
付き合いはじめは、距離を詰めることが正解に見えます。連絡を増やし、会う頻度を上げ、共有する時間を長くする。実際、それで温まる時期があります。
ところがある時点から、同じ行動が針になります。連絡の多さが監視に感じられ、共有の多さが息苦しさに変わる。相手が冷たくなったのではなく、距離が近すぎる領域に入っただけ、ということがあります。
逆に、傷つきたくないからと最初から離れていると、寒さのほうで関係が終わります。距離を取ることは安全に見えて、別の失い方をしているだけです。
ちょうどいい距離は固定されない
見落とされがちなのは、この距離が一度決まれば終わり、ではないという点です。
仕事の繁忙期、家族の事情、体調。相手の状況が変われば、快適な距離も動きます。前は毎日連絡していたのに最近は減った——これを愛情の減少と読むと、たいてい間違えます。気温が変わったから、群れの間隔が変わった。それだけのことは多いです。
だから、距離は「決める」ものではなく「測り直し続ける」ものだと考えたほうが実際に合います。
タロットでは「節制」
節制のカードは、二つの器のあいだで液体を行き来させている絵柄です。混ぜて一つにするのではなく、行き来させて調整し続けている。
このカードが関係の場に出たときは、どちらかに合わせるのではなく、往復の量を調整する場面だと読めます。ヤマアラシが間隔を測り直している、まさにその状態です。
今日からできること
いまの関係で、連絡の頻度・会う頻度・一緒にいる時間の長さのうち、どれか1つだけを選んで、2週間だけ変えてみてください。増やすのでも減らすのでもかまいません。
一度に全部変えると、何が効いたのか分からなくなります。1つだけ動かして、相手の反応と自分の落ち着き具合を見る。これが、寓話のヤマアラシがやっていたことの、現実版です。