落ち込んでいる相手を励ましたつもりが、かえって距離ができてしまった。こちらは真剣に心配しているのに、「わかってない」と言われる。善意が空回りする経験は、親しい関係ほど起きやすいものです。
ショーペンハウアーは『道徳の基礎について』で、道徳の根っこを「同情」に置きました。厳しい人間観で知られる彼が、倫理の中心にこれを据えたのは意外に思えますが、ここには恋愛にも効く発想が入っています。
同情とは、相手の苦しみを自分のものとして感じること
彼の言う同情は、上から気の毒がることではありません。相手と自分を隔てている壁が一時的に薄くなり、相手の苦しみが自分の苦しみとして直接に感じられる状態を指します。
理屈で「かわいそうだ」と判断するのとは別のものです。判断が先に立つと、そこには必ず距離が残ります。彼が重視したのは、判断の手前で起きる、区別が薄れる感覚のほうでした。
励ましが空回りする理由
ここから、恋愛でよく起きるすれ違いが説明できます。
「大丈夫だよ」「そんなに気にしなくていい」。これらは善意の言葉ですが、構造としては相手の苦しみを外側から評価しています。あなたの苦しみは、大丈夫な範囲のものだ、と。
言われた側は、苦しみを小さく見積もられたと受け取ります。だから、励ませば励ますほど遠くなる。
同情の側から出てくる言葉は形が違います。相手の苦しみを測らず、そこにあるものとして扱う。「つらいね」で止められるかどうか、が分かれ目になります。
解決したくなる気持ちを一度置く
もう一つよくあるのが、話を聞いている途中で解決策を出してしまうことです。
これも善意ですが、解決策を出すという行為は、相手の状態を「解決すべき問題」として扱うことでもあります。相手が求めているのが解決ではなく、一緒にいてもらうことだった場合、ここでズレます。
順番の問題です。先に苦しみを共有し、そのあとで必要なら手を出す。逆にすると、どれだけ的確な助言でも届きません。
自分を犠牲にすることではない
注意したいのは、同情と自己犠牲は別物だという点です。
相手の苦しみを自分のものとして感じることと、自分をすり減らして相手に尽くすことは違います。後者は、続けるほど相手への要求が溜まっていき、最終的に関係を壊します。
壁が薄くなるのは一時的でよく、そのあと自分に戻れることが条件です。戻れなくなっているなら、それは同情ではなく、境界が消えている状態です。
タロットでは「カップのクイーン」と「星」
カップのクイーンは、感情を受け取る力を示すカードです。自分の感情を押しつけるのではなく、相手の感情を器で受ける。同情という言葉に最も近い場所にいます。
星は、傷ついたあとに訪れる静かな回復を示します。派手な救済ではなく、そばにいることで少しずつ戻っていく過程です。励ましではなく同席が効く場面、と読めます。
今日からできること
次に相手が弱っているとき、最初の3往復は、助言も評価もせずに聞くと決めてみてください。「それでどうしたの」「そのときどう思った」だけで進めます。
3往復のあいだ我慢できたら、そのあとで「何かしてほしいことある?」と聞く。順番を変えるだけで、同じ内容の助言が届き方を変えます。